化学プロセスの安全は運転,設備そして取り扱われる物質からの総合的な技術の基盤に立って成り立つものである.しかし,団塊世代のベテラン社員の退職や若者のIT志向などから現場における安全管理の基本事項が伝承されにくく,また安全を確保していくための会社や職場の風土が少しずつ崩れかけつつあるのではないかと,社会全体が心配してきているのも事実であろう.
また平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震による種々の大規模な被害や予想外の事象が発生し,安全に対する不安感が大きく膨らんできている状況ではなかろうか.そのために,いまこそ現場における安全の基本とは何かを振りかえって整理し,若者へ伝承しなければと考えた.
そこで,石油精製や化学産業など化学プロセスの現場における運転面からの安全の基本項目について,項目を整理し,Q&A方式で判りやすく説明するとともに,項目ごとに実際の事故例を簡潔にまとめた.
まずIでは現場の各職場における安全の基本となる考え方やチームワーク,先輩と後輩の職場での行動や業務のあり方など職場の安全風土に係わる事項を述べた.IIではプロセスの運転中における種々の作業安全のポイント,緊急時の現場対応,そして事故を未然に防ぐための仕事や作業の管理について記載した.IIIでは現場での工事との係わり方や安全確保のポイント,IVでは設計との関係,そしてVでは今までの大規模地震とその被害状況,化学プロセスやタンクの耐震設計や防消火能力,今後の災害対策の提言などを解説した.
本書は若い人たちが読みやすく理解しやすいように工夫したつもりであり,化学プロセスの現場や指導者の方々にも広く理解され,現場の安全活動に有効に活用され,化学プロセスの安全に役立てていただければ,大いによろこびとするところである.
なお,本書の編集にご指導を戴いた東京大学名誉教授 田村昌三先生はじめ小林光夫氏,西茂太郎氏に感謝の意を表します.
おわりに,本書の出版にあたり企画,編集などにおいて多大なご尽力いただいた,みみずく舎/医学評論社の編集部諸氏に厚く御礼申し上げます.
2012年5月
岩 田 稔
若倉 正英
清水 健康
井田 敦之