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第110回医師国家試験 総評

 110回国試は今までの国試のうちで、最も問題の難易度が高い国試でした。臨床問題の症例文も長文化し、受験生の苦労は並大抵のものではなかったと思います。3日間の長丁場をしのいだ受験生の皆様に心からお疲れ様でしたと申し上げたいと思います。また、今回も109回に続いて良質な出題が維持されました。出題委員長はじめ出題委員の先生方と厚労省の担当官の皆様にも敬意を表したいと思います。国試は医学教育に多大な影響を与えています。国試の内容が変であると医学教育ひいては医療の質の粗悪化を招くことになります。

 以下、今回の国試の特徴を述べたいと思います。その前に総括しますと、110回国試は難問は多かったが出題の主流はもちろん標準問題であり、内容もよく吟味された出題になっています。日頃の学力がそのまま反映されやすいので、よく勉強して力を出せた方は妙な不安を抱くことのないようにお願いしておきます。

(1) 必修問題は妥当な出題を維持した。出題範囲はもはやガイドライン(以下GL)に限定されていない。
 必修問題が不穏当な出題であると受験生に恐慌を巻き起こします。今回の国試は、相対的には史上最難の出題だったのですが、意外と「難しかった」という感想は聞かれませんでした。必修問題が穏当な出題だったため、難しいとの印象が薄まったのではないかと思われます。
 GLに従うと必修問題の出題範囲は著しく狭く(重要疾患であっても、例えばSLEは必修の出題範囲に入っていない)、狭い出題範囲で新作問題を出そうとすれば無理な問題になるしかありません。107回から方向性が変わって、必修GLの範囲外の疾患がどんどん出題されるようになりました。それとともに無理な出題は目立たなくなっています。今回もこの路線を継承して、例えば偽痛風(F26)のように、必修GLの範囲外であるが日常臨床でよく遭遇する疾患が積極的に出題されています。

(2) 臨床問題は実務に即した出題の仕方になっている。
 一昔前の臨床問題では、診断が直ちにわかるキーワードが症例文中に必ずあったものです。しかし、実務で、初診の段階で診断に直結する検査結果が常に得られるわけではありません。例えば、膠原病を疑っても自己抗体のほとんどは緊急検査で調べられないわけで、ルーチンの血算・生化、スクリーニングの画像診断の結果から手がかりを得ていくほかないわけです。それらの検査結果の中には診断に寄与しないものも多くあります。今回の臨床問題は、診断に寄与しない検査結果もすべて提示し、必要な情報を選別する能力を試す問題が多くなっています。その結果、症例文は長文化しています。もちろんこれは臨床のシミュレーションとして正しい方向であり、受験生の臨床能力を試すのにふさわしい出題です。要するにリアルな出題になっています。
 以上は出題形式の話ですが、内容的にも近時の臨床実務を踏まえた出題になっています。例えば、Wegener肉芽腫症の発症の仕方には様々なバリエーションがあり、診断に難渋する疾患の1つですが、今回は以前の出題とは違った切り口から出題されています(A45)。くも膜下出血では3D-CTAで手術をする施設が増加していますが、今回は3D-CTAを正解にさせる問題(F19)が出ていました。ドパミントランスポーターSPECTでLewy小体型認知症の確定診断をつけさせる問題(B54)すら出ています。

(3) 総体的な出題のレベルは過去で最も高かった。
 メジャー領域では、これまで出題のなかった疾患を題材にした問題や、有名疾患であっても過去に類題のない切り口で問う問題が目立ちました。正直に言って「ここまで出すか」という題材もあります。例えば、特発性正常圧水頭症のMRIではSylvius裂が開大し高位円蓋部の脳溝は狭小化します。これは専門医の間では有名な話ですが、これが出るとは思いませんでした(D46)。MRIで扁桃体の部位を問う問題(B18)も出ています。幸い、多くの出題は答が出せるように症例文と選択肢が練ってあり、配慮がうかがわれます。選択肢の練り方がいま一つという問題も散見されますが、正答率は低く、合否には影響しないと思われます。
 マイナー領域は有名疾患しか出ないことが多いのですが、今回はメジャーと同様に妥協なく詳しい問題が出ています。例えばSweet病は関節痛を伴うことが多く(炎症性サイトカインが多量に放出されているので当然といえば当然ですが)、類乾癬は乾癬と異なり関節炎を起こさない、というあたりが厳しく問われています(D5)。

(4) 題材の重複が目立つ。
 これも107回からの傾向ですが、common diseaseに関しては重複を気にせず出題される傾向があります。
 今回は、それに加えて、それほどcommonでなくとも専門医レベルでは重要な事項が繰り返し出されているように感じられます。パルボウイルスB19感染症(A46、G42)や辺縁系脳炎(A22、B18)、びまん性軸索損傷(E67、G59)などは複数問で出題されています。
 また、QT延長の問題は2問(A10、E34)あり、中毒の問題で「全身の除染」という肢(D33、E46)が複数出ています。D20ではGNRによる単純性尿路感染症の治療薬を問うていますが、E42ではGNRによる単純性尿路感染症でセフェム系を投与した、と症例文にあります。後続の問題に答が出ているわけです。
 受験生としては、1日目、2日目が終わったときに、気になった事項を調べておくと後続の日で役立ったのではないかと思われます。

(5) 病理診断が多い。ヒントの乏しい病理診断・画像診断も多い。
 病理の出題は109回も多く感じたのですが、今回も多かった印象です。病理診断は難しいもので、医師で他科の病理がわかる人はほとんどいません。まして学生レベルで詳細な病理診断を要求するのは無茶な話です。難しい病理診断の問題も出ていますが、幸い、臨床情報や画像診断から見当がつけられる問題に作られているものがあります。例えば、耳鼻科領域の血管線維腫の病理診断(D48)がありますが、臨床情報と画像診断から見当がつくように配慮されています。他方、臨床情報が皆無かほとんどない問題もあります。このような問題は難しすぎて学力差を反映しませんから、合否には影響がありません。

(6) 臨床判断能力を問う問題は目立たなかった。
 109回までの顕著な傾向として、臨床判断能力を試す問題が多かったと思います。例えば、高K血症で優先的に行う検査や処置を答えさせる問題で、肢にグルコン酸Caとイオン交換樹脂があり、どちらか1つを選ぶことを問うような問題です。速効性を考えれば当然グルコン酸Caが答なのですが、かつての国試ではここまで問われませんでした。このように臨床実務に役立つ、即戦力的な知識を問う問題が最近の臨床問題の主流であったわけです。
 今回は、診断がつけば後は事実上一般問題である、という出題が多かったように思います。今後、一般的な知識の確認はCBTで行い、国試では臨床判断能力を試すという方向に移行してゆきます。しかしそれだと国試の頃には一般的知識を忘れているのではないかという懸念もあるわけで、今回の国試は意図的に一般的知識を問う問題を多くしたのかも知れません(考えすぎかも知れません)。

(7) 禁忌肢はわかりやすかった。
 誰も気にしなくなった禁忌肢問題ですが、廃止はされていません。今回、禁忌肢の設定は非常にわかりやすくなっていました。

 以上、110回国試の傾向を概観してみました。111回へ向けての展望としていささかでも役立つならば幸甚です。